女子高生に庇ってもらって守られた命だったことを18歳になるまで知らなかった。女子高生の親に初めて会った俺は生まれて初めて人前で泣き崩れた・・・

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「裕子、慶太君大きくなったね、良かったね」

おばさんは遺影に話しかけ続けた。

「あの……」

俺と母とこの人と裕子さん、
接点がまるで分からない。

「何から話せばいいか…」

おばさんは、そっとビデオを取り出した。

「とりあえずこれを見てちょうだいな」

それはとある日のニュース。

キャスターは話す。

7月18日夕方5時頃、

トラックの前に飛び出した子供をとっさにかばった
女子高生、前田裕子さんが意識不明の重体、
病院に運ばれ、間もなく死亡が確認されました。

どうやら裕子さんは子供をかばい亡くなったらしい。

ビデオを止めたおばさんが、
衝撃の言葉を発した。

「この子供があなたなの」

「え?!」

全身から血の気が引いた。

何も言えない俺におばさんは続けた。

「裕子は今のあなたと同い年だったわ。
 保育士を目指してた。
 子供が好きだったあの子のこと、
 私は何も不思議に思わなかった。

 あなたの両親には泣きながら、
 何度も何度も頭を下げられた。

 そんなあなたの両親に、私はひとつだけ
 約束をしてほしいと頼んだの。

 あなたは当時2歳。

 あなたにだけはこの事実を
 隠し通してやってほしい。

 娘もそう願っていると…。

 だから今日あなたのお母さんから、
 電話があった時にはびっくりしたわ。

 自暴自棄になっているあなたに
 すべてを話してやってほしいと言うのだから。

 もちろん、あなたに恩を着せるつもりはなかった。

 ただあなたが今、道に迷っているなら、
 きちんと話そうと思ったの。

 あなたの命はあなただけのものではない。

 あなたの何気なく生きる瞬間は、
 裕子があなたに命を捨てて授けた瞬間。

 どうか真っ直ぐに生きて……」

いつぶりだろう。人に涙を見せたのは…。

毎年毎年、花を持ち頭を下げていた両親。

娘を奪われて、なお俺に
心を馳せてくれたこの人。

そして見ず知らずの俺のために、

18歳の生涯を閉じた裕子さん。

たくさんの人の熱い想いが涙となり、
俺の頬を伝い続けた。

「すみません、
 何を話せばよいか分かりません」

「ならお願い」

 おばさんは言った。

「今、受験生よね」

「3月には素敵な報告を、おばさんに
 届けてくれないかしら、
 お母さんより先に」

思わず見上げたおばさんはイタズラっぽく微笑んだ。

「……はい!!」

俺はおばさんの家を後にした。

ポケットに何かある。さっきの煙草だ。

迷わずゴミ箱に捨てた。

それから俺はがむしゃらに勉強した。

叶わなかった裕子さんの分まで。

3月。…俺は走っていた。電車へと。
そしておばさんの家へと…。

「おばさん!やったよ!合格したよ俺!」

その時見せたおばさんの笑顔は
あまりにまぶしかった。

「慶太!行くわよ!」

「あぁ!」

7月18日。

俺は20歳になっていた。

裕子さん、おばさんに会いに…。

この日は俺にとって、一番大切な日となった。