女「……」
男「……」
女「なんで急に黙るんですか」
男「いいから早く食べましょう」
女「そんなにわたしの部屋に入りたいんですか」
男「いいえ。部屋じゃなくてもいいですよ」
女「わたしはどこでもイヤです」
男「ていうか、いいから早く食べてください」
女「なぜそんなに急かすんです? 最後の晩餐なんですよ」
男「最後の晩餐がマックって、絶対に死んでから後悔しますよ」
女「フレッシュネスバーガーのほうがよかったかもしれませんね。
ていうか、わたしってマック好きじゃないんですよね」
男「……じゃあなぜここに足を運んだんですか?」
女「確かめるためです」
男「どういうことですか?」
女「空腹は最高のスパイスって言葉は知ってますよね」
女「あの言葉って人間のバグを端的に表してると思うんですよ」
女「お腹がすいてるって理由で、食べ物がおいしくなる」
男「ああ、なんとなく言いたいことがわかりました」
女「これが最期の食事だと思ったら、なにか変わるかなって思ったんです」
女「変われば、わたしはこれから死ぬってことをより実感できますからね」
男「ハンバーガーの味はどうなんですか?」
女「よくわかりません。普段よりおいしい気もしますし、変わらない気もします」
女「ひょっとしたら、わたしは味の変化を認めたくないのかもしれません」
女「自分でも、どうしてそんなことを思うのかはわかりませんけど」
男「僕にはなんとなく、あなたの気持ちがわかりますよ」