実際に起きた戦時中の知られざる事件
太平洋戦争末期の1945年。物語の主人公である鳥居さん演ずる「和子」と、その他12名の男たちが、現在の北マリアナ諸島自治連邦区に属する「アナタハン島」という島に漂着します。過酷な集団生活の中で、食糧やたった一丁の拳銃、そしてたった一人だけの女性である和子をめぐって事あるごとに争う男たちに対し、和子はその男たち一人一人の性格を見抜き、あらゆる顔を見せては物事に使い分け翻弄してゆき、やがては殺戮まで起こる事件に発展します。
アナタハン事件は、木村多江さんの主演映画「東京島」をはじめ、題材にされた映像が存在しており、鳥]居さんは今回の役作りをしようと思いましたが…「TSUTAYAに行って『あ』の欄を探したんだけど見つからなくて…気付いたら『う』の欄の『ウォーキング・デッド』を借りてしまって、ゾンビの完成度がアップしましたよ。あっ、そうか、アナタハンの話だっけ(笑)」。
恐るべき魔性の女
主人公の和子は「多重人格者」という特異な性質で男たちを虜にする「魔性の女」という生き方。
「でも逆に言えば和子はすごく純粋なんだと思う。それ故にもがいて生きなければならないのでしょう」と思いを寄せながらも「友達がほとんどいない私は以前、一人でボーリングをした時に、頭の中で『鳥居』と『みゆき』という二つのチームを作って、頭の中で会話しながら、いいプレーが出れば頭の中でハイタッチとかしてましたよ」と、男たちを操る様々な「顔」を演じ分ける自信ものぞかせています。
主演として、そして座長として最高の舞台を
主演であるだけでなく「座長」として舞台をリードする鳥居さん。最高の舞台を作り上げてゆくためには、共演者たちに妥協はしません。
「若手役者の中に『自分は若さが売りなんだ』と言う子がいたんです。でも若さや顔の良さが売りと言ってもそんな人は星の数ほどいますから、そこで自分を納得させちゃダメなんですよ」。
コントや映像、舞台、自らの著書などで強烈な個性を発揮して来た鳥居さんだからこそ、納得出来ない演技には徹底してダメ出しをしますが、それは若い役者たちへの厳しくも温かな親心なのでしょう。
舞台ならではのやりがいと緊張感と演技力
舞台はテレビとは大きく違います。
「ルールというものは壊すものでしょう。そのルールの内外ギリギリの所に放送コードがあったとしたら、いかにそれを延長コードにするかという発想と作業が面白い」と笑う鳥居さん。ストーリーを脱線させながらもしっかりとオチを付け、でもそこに『本音らしきもの』をうまく混ぜ合わせます。コントで舞台に立つ時は「自身のネタを出す時は『ここだ』というタイミングでお客さんの方を見ながらやりますよ。私のネタは文字数が多くわかりにくいだけに『ここが肝心ですよ』という微妙な提示をしないと難しいんです」。
生きる事への葛藤、でも私は生きる
今回の「女王と呼ばれた女」という舞台は「生と死」がテーマですが、鳥居さんは語ります。
「私はいつも『死』をテーマにしたネタを舞台の度に書くんですけど、でもそれは結局『生きる』ためのテーマだと気付いたんです。生きる事の延長線上に死があるんだなって。この前単独ライブをやったんですが、それを表現しましたよ。人間って『死にたいと思う時ほど生きたい』はずじゃないですか。これは私にしか出来ない表現だと思いますよ」。
やり残した事がある限り
これまでインタビューなどでは「私は35歳で死ぬから」と答えて来た鳥居さん。しかしやがて36歳の誕生日を迎えます。そして誕生日の直後に今回の舞台が始まります。
「35歳で死ねなかったのは、まだまだやり残した事が多いんでしょうね。私なりの色を舞台で出せればいいなと思います」。
不自由の中にこそ自由がある…35歳という不自由を突き破り、36歳からその先の自由の世界へと、鳥居さんの目はしっかりと向けられています。