男「ええ。ですから、あるときからずっと叫んでみたんですよ」
男「『誰か死んだ人はいませんか』って」
女「それで、反応した人はいなかったってわけですね」
男「ええ。心霊スポットとか樹海とか自殺現場にも、足繁く通ったんですよ」
女「それでも誰にも会わなかったんですね」
男「はい。そこではじめて気づいたんですよ」
男「幽霊になっても、幽霊は見えないって」
男「それに気づいたとき、死のうと思ったときと同じぐらい死にたくなったんです」
女「おしゃべり好きな人は、自殺しないほうがいいってことですか」
男「……あれ、まだ言ってませんでしたっけ?」
女「ん?」
男「僕、生前は人と話すのがイヤでイヤで仕方なかったんです」
女「……」
男「目は口ほどにものを言うって言葉の意味がわかりました」
女「バレました?」
男「嘘だろっていうのが、一瞬で伝わってきましたよ」
女「わたしは以心伝心の意味がわかりました」
男「ほほう」
女「あと目は口ほどにものを言うって言葉の意味も。変なかんちがいしないでくださいね」
男「照れなくてもいいのに」
女「はいはい」
男「まああなたが、そう思うのも無理はありません」
男「でも、本当の話なんですよ」
男「友達も全然いませんでしたし、まして異性の知り合いなんて……」
女「そのわりには、わたしと話すときはすごい流暢でしたよね?」
男「死んでから、ずっといろんな人に話しかけてたんですよ、僕は」
女「人と話すのはきらいだって、さっき言ってましたよね?」
男「ええ。ですけど、何年たってもやることがないんですよ?」