俺の家は小さなパン屋をしていた。親父がパンを焼いて、
お袋が店で売るという店員2人の小さな店だった。
俺は幼稚園のころから店を手伝っていた。
すぐ横にはおじさんがやっている豆腐屋もあったので、かけもち
で手伝っていた。 友達と遊ぶのも良かったが、店でお客さんと話す方が好きだった。
俺が中学生のころ、うちの店によく来る親子連れがいた。
決まって食パンとラスクとパンの耳を買っていった。
お袋はいつも一緒に来る女の子にアンパンをあげていた。
お袋は「あの人は可哀想な人なのよ」と言っていたが俺にはよく分からなかった。
しかし、アンパンをあげた時の嬉しそうな顔は本当に絵に描いたような笑顔だった。