男「ああ、そういうのですかね」
男「どうしてなんでしょうね?」
男「ああいう人たちが、さも間違ったもののように描かれてしまうのは」
女「みじめで、みっともないからじゃないですか?」
男「そういうことをする人より、命を投げ出す人のほうが好かれるんですよねえ」
男「ごめんなさい。愚痴っぽくなりましたね」
女「あなたの本当の性格が垣間見えましたね」
男「恥ずかしいです」
女「……でも、あなたの気持ち、今ならわかります。ほんの少しだけ」
男「嬉しいですね」
女「昨日夢を見たって言ったじゃないですか、わたし」
男「言いましたね」
女「透明人間になる夢を見たんですよ」
女「夢の中ではわたし、なぜか中学生にもどってたんですよ」
女「夢の中では、学校の廊下を走っても誰にも注意されませんでした」
女「バスに乗っても、お金を払う必要がありませんでした」
女「みんな見てないみたいでした。わたしのことなんて」
女「最初はね、うらやましいだろって優越感に浸ってたんです」
女「でもだんだん、それがつよがりになって」
女「誰かにわたしの名前を呼んでほしいって……夢の中で思ったんです」
男「まさしく透明人間ですね」
女「でも、わたしはいやらしいことは思いつきませんでしたけどね」
男「僕が死んでから、変なことをしたみたいじゃないですか」
女「ちがうんですか?」
男「否定はできませんね」
女「やっぱりね」
男「なんだか、あなたが楽しそうに見えます」
女「気のせいですよ。わたしの人生はみじめでみっともないものです」
女「それこそ、自殺したくなるぐらいにね」
男「……」
男「でも、それでも生きてれば、いいことはあるかもしれませんよ」
女「そう言って、なにも起きないまま人生が終わって」
女「なんでもっと早く死ななかったんだろうってみじめな思いをしそうですね」
男「そうですね。生きてればいいことがある、なんて無責任な発言です」
男「ですが、断言します」
男「あなたがここから飛んでも、いいことは起こりません。絶対に」
女「そんなのは自殺する人は、たぶんみんな知ってます」
女「あなただってそうだったんでしょう?」