男「『なぜ見ず知らずの男が、わたしの履いている下着の色を知っている?』」男「そんな顔をしてますね」
女「あなた、なんなんですか」
男「フッ、どこにでもいる男ですよ」
女「それは聞いてません」
男「なぜ僕があなたの下着について知っているのか」
男「簡単ですよ。あなたはここ一週間、このマンションの屋上から飛び降りようとしていた」
男「そうですね?」
女「一週間も前から、わたしのことを見ていたんですか」
男「正確にはあなたではなく、あなたのスカートの中を、ですがね」
男「あなたは飛び降り自殺を実行しようとしていた」男「しかし、いつもギリギリでやめてしまいますね」
女「……」
男「いやあ、一週間前にこのマンションを見上げたときは驚きましたよ」
男「『あっ、下着だ!』って」
女「下着だったんですか、真っ先にあなたの目に飛びこんできたのは」
男「そりゃそうでしょう」
男「なかなかないんですからね。出会う機会って」女「あなた、これから死ぬ人間によくそんなことを言えますね」
男「逆ですよ。口なしになる人にだからこそ、思ったことをぶっちゃけてるんですよ」
女「で、抱かせてくれ、ですか?」
男「フッ、なんなら僕が抱かれてもいいですよ」
女「けっこうです」
男「うーむ。どうも、あなたは難しい人間のようですね」
女「わたしはいたって普通です。おかしいのはあなたでしょう。
死後の世界にだって、初対面で抱かせてくれる人なんていませんよ」