男「……」
女「言っておきますけど、すこしだけしか申し訳ないって思ってませんから」
女「変な勘違いはしないでくださいね」
男「……僕はあなたでよかったと思いますよ」
女「なんです? 口説きにかかってるんですか? 素人のくせに生意気です」
男「あはは、言われたことありません?」
女「なにをですか?」
男「言動がきついって」
女「……」
男「考えこまなくても、こころあたりはたくさんあるんじゃないですか?」
女「いいえ。あなたがはじめてです」
男「嘘、ではなさそうですね」
女「わたし、普段はそんなにしゃべらないんです」
女「人と話すと、すごい疲れるっていうか」
女「当たり障りのないことしか、言えないし、本音を話せる友達もいません」
女「あなたに話しかけられたときは、もうなんかすべてがどうでもよくて」
女「こんなふうに、誰かにひどいこと言ったのは、たぶんはじめてです」
女「話しかけてくれたのが、あなたでよかったかもしれません」
男「え? もしかして僕を口説いてるんですか?」
女「くたばれ」
男「やだなあ、とっくに死んでますよお」
女「……答えたくないなら、答えなくてけっこうです」
男「ん?」
女「あなたはどうやって死んだんですか?」
男「ああ、自殺です」
女「あなたが?」
男「意外ですか?」
女「よくわかりません。続きを話してください」
男「……実は僕も、このマンションの住人だったんですよ」
女「まさか、ここで死んだんですか?」