収録を終えたたけしさん
たけしさんはいつも、収録が終わるとすぐに着替えて帰るのが習慣になっていました。
いつものように本番を終えて、楽屋に帰るところ。
たけしさんが急に廊下で立ち止まり動きません。
何があったのかわからない弟子たちは、しばらく待っていましたが、動く気配がありません。
「殿、何してるんですか?早く帰りましょうよ。」
弟子のひとりがそう声をかけると、
「待て!」
と弟子たちを制止しました。
たけしさんは厳しさの中にも優しさが入り混じったような、真剣な目で前を見つめます。
その視線の先には、気になるものがあったのです。
たけしさんの視線にあったもの
たけしさんが歩みを止め、じっと見つめる先には、若手コンビがいました。
まだ名前も売れていない、知らない若手コンビです。
彼らは廊下で一生懸命、ネタ合わせをしていました。
そして、たけしさんは弟子たちにこう言います。
「今、俺が通ると練習を中断して挨拶をしなきゃなんない。
あのネタが終わるまで待て。」
たけしさんほどの大物が通るとなると、若手は挨拶をしなければ失礼にあたるでしょう。
そのような上下の縦社会が芸人の中にはあります。
それを考えた上で、たけしさんは待っていたのです。
ネタを中断させては、ネタ合わせが台無しになってしまう。
かつて漫才師でもあった、たけしさん。
その芸にかける情熱はベテランでも若手でも上下はない。
芸人「ビートたけし」としての真剣さが、そこにはありました。