俺は目に涙を溜めていたかもしれない。
数時間前の渡辺の状態だ。
俺はとにかく嬉しかった。
荒野にポツンと1人置き去りにされた様な
状態でどうすることも出来ない俺。
そんな俺に声を掛けてくれた人物がいる。
例えそれが誰であれ救われた気持ちになった。
「お願いします。香盤表の書き方を教えて下さい。お願いします」
この時田畑さんがどんな人物ななんて知らない。
いまにして思えば天才演出家に香盤表の書き方を聞くなんて
恐れ多い行為であった。
しかし・・・しかし。俺はこの人を逃すとどんな状況になって
しまうのか想像すら出来なかった。
田畑さんは「香盤表?」と言って目を丸くした。