男「あれれ? 話す気になったんですか?」
女「あなたが、はなしてくれませんからね」
男「ちょいちょいびみょうなことを言いますよね、あなた」
女「うっさい。話すなら話してください。死にますよ?」
男「はいはい、わかりましたよ」
女「……」
男「どうして人は、死ぬことをコワイと思うんでしょうか?」
女「知りません」
男「少しは考えましょうよ」
女「本能」
男「本能、ですか」
女「死を恐れるのは人間だけないですよね」
女「動物とかは、本能的に生きようとしますし」
男「あなたってロマンがないですよね」
女「嬉しそうに言わないでください」
男「僕、女の人ってもっとキラキラしてるのかと思ってました」
女「これから死ぬって人間が、目をかがやかせてロマンチックなことを言うとでも?」
男「あはは、たしかに」
女「じゃあロマンのある死を恐れる理由ってなんなんですか?」
男「ロマンチックかどうかはわかりません」
男「ですが、疑問に思うことをやめるのって死んでるのと同じことだと思うんですよ」
女「一理あるかもしれませんね」
男「謎や疑問は、いくらでも日常にあふれてると思うんです」
女「そう思って生きることができたら、楽しいでしょうね」
男「ええ、きっとね」
女「……あなたって鈍感ですよね」
男「え? なんだって?」
女「絶対聞こえてましたよね」
女「ていうか、話が進みませんね」
女「あなたの考えを教えてください」
男「わかりましたよ」
男「死んだことがない人間が、どうして死をコワイと思うのか」
男「実は僕たちは、死ぬことじたいはそれほど恐れてはいないんじゃないでしょうか」
女「じゃあなにを恐れてるんですか?」